サステナブルニュース

物流視点でサスティナブルを考える
2022/11/10
サスティナブルという言葉が、メディアなどでも多く取り上げられています。サスティナブルとは、「持続することができる」という意味を持ち、これまでの大量生産、大量廃棄を見直し、限りある資源を大切に、環境負担を減らし、将来にわたって持続し続ける社会の実現を目指すものです。 ファッション業界は華やかなイメージの裏側で、商品を製造する工程でCO2や汚染された水を排出し、ブランドイメージを棄損しないことを理由に商品が廃棄され、購入後の大量の廃棄や、さらにはポリエステル、ナイロンなどの素材の商品は洗濯するたびに、マイクロプラスチックによって海を汚染してきました。その結果、環境汚染産業ランキングではNO2として、「環境の破壊者」との不名誉な称号までつけられています。 そのためファッション業界では、環境問題の解決に向けた取り組みが重視されています。なかでも、パタゴニアやナイキなどの海外ブランド企業は、廃棄や汚染を生み出さない素材開発やデザインで、商品や原料を使い続ける仕組みによって、循環型社会の実現を目指しています。 サスティナブルを実現するためには、生産物を生産者から消費者に届ける一連のプロセスである物的流通の範囲だけでなく、戦略的にモノの流れ全体を管理する意味を含むロジスティクスの領域で考える必要があります。 「必要なモノを、必要とする量だけ、必要な時に、必要な場所に供給する」トヨタ自動車のジャストインタイムの考え方は、生産現場だけでの話ではなく、店舗や倉庫に大量の商品が溢れ、セールによる安売りや、廃棄を行っているファッション企業にとって取り組むべきテーマです。さらには、サスティナブルを実現するためには、商品を販売して終わりではなく、その販売後の責任までも企業が持つことが重要です。今後のファッション企業が目指すべき姿を3ステップで考えたのが下記の内容になります。 ステップ1:点から線へ これまでのそれぞれの生産や営業などで部署別に途切れていた部分最適な状態から、需要情報をもとに販売から調達までのディマンドチェーンを繋げて、無駄な在庫を持たず、市場の変化に対応して供給体制を構築することが求められます。その代表的な事例としてスペインのアパレル企業インディテックスのZARAが上げられます。製造に時間がかかる素材を生地でストックし、店舗での販売情報をもとに受注組立生産により2~4週間で商品を製造し、店舗に届ける高速物流によるジャストインタイムを実現しています。まさに生産から販売までの垂直統合により、市場の動向にあわせたモノ作りを実現しています。 最近話題の中国系ECアパレルSHEINも大量生産ではなく、提携する中国工場との連携し、高速での製造販売による越境ECで急成長しています。その裏側では、ロボットによるスマートファクトリーやAIを活用したトレンド分析などから豊富なデザインのアイテムを必要なだけ少量生産し、余剰在庫のリスクを回避し、低価格で提供しています。 これまでの製造費や物流費をなるべく安く抑えることを目的とした見込み生産では、多様化する消費者ニーズに応えることができず、見込み違いから在庫を残し、セールなどによる安売りや、廃棄となっていました。作り過ぎによる大量廃棄の問題解決としてだけでなく、健全な企業経営としても、点から線への物流の見直しは必然的な流れではと思います。テクノロジーの進化は、店頭やECサイトでのお客様の動向を製造へリアルタイムでつなぐことが実現可能になっています。 ステップ2:線から円へ  商品を供給する動脈物流だけでなく、不要になった商品の返品・回収などの静脈物流を考えることは、これまでの消費者に届ける前での工程で終わっていた流れを消費者の手元に届いた後の責任まで企業が考えることを意味しています。店頭での売れ残りをシーズンの終わりに倉庫に返品することはあっても、お客様が購入された後までは意識することは少なく、いかにお客様に販売するかに企業は注力していました。また、大量生産を前提としていた製造工程では、価格や機能性から化学繊維の使用や、CO2の排出や水の汚染などの地球環境に負担をかけていました。 最近、ファッション企業が店頭に置いた、お客様がいらなくなった商品を回収するリサイクルボックスを目にすることがあるかと思いますが、販売して終わりではなく商品を回収して商品や原料へと資源を循環させる活動で、販売した後の商品の責任までを企業が考えるようになってきました。商品企画においても、有害な化学物質を含まない原料や素材を使用し、水の使用や排水をなるべく減らすように管理しています。 リペアやリファービッシュなど再生品として使い続けられるような取り組みや、裁断加工によるウエスや反毛加工による車の内装材などへのリサイクル、さらには、もう一度繊維に戻す、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルなども循環型社会の実現に向けて取り組みが始まっています。 また、シェアリング型のサービスも、商品を所有するのではなくサービスとして必要とするときにだけ使用することで、企業はお客様との長期的な関係を構築し、商品を使い続けることになります。これまでの大量に低価格を前提としたビジネスモデルとは違うサスティナブルなビジネスモデルと言えるのではと思います。 ただ、海外と比較しても日本のファッション企業はサスティナブルの活動には、まだ消極的なように感じます。サスティナブルな素材に変えることへのコストアップや、商品回収からリサイクルへの活動には企業負担がかかることなどがあげられるかと思います。「グリーンウオッシュ」と言った言葉もでてきています。グリーンウオッシュとは、企業が実際にはそれほど環境に対する取り組みを行っていないのに、ブランドイメージを良くするために過度にアピールしたりする、上辺だけのエコ活動になります。 実際にリサイクルの活動をひとつの企業だけで行うことはコスト面でも難しいため、複数の企業が連携して行う必要があります。企業間の垣根を越えて、さらには他の業界や国境を越えた動きにもなるため、広い視野と長期的な視点での取り組みが求められています。 物流視点でサスティナブルを考えるとは、作って捨てるこれまでの直線型の経済を、使い続ける循環型の経済を支えるインフラとして物流が機能することにつながるのではと考えています。 ステップ3 円から面へ  これまでは企業は他社と競い合い市場規模を広げ、売上げを拡大する競争社会によって経済は活性化されてきました。人口も増加して需要が供給を上回っていた時代には通用したのですが、人口が減少し市場が縮小して供給過多になっているモノ余りの時代にあった仕組みづくりが必要とされています。また、物流を取り巻く環境においても、高齢化などによる労働人口の減少やインターネット通販などの小口配送の増加などから、ドライバー不足や物流費の高騰なども問題となっています。  また、2020年度の日本のCO2排出量のうち自動車、船舶など運輸部門からの排出量は17.7%で、なかでも貨物自動車の割合は約40%を占めます。地球温暖化を防ぐ意味でもモノを運ぶ輸配送を効率的にする必要があります。それにも関わらず、貨物自動車の荷台の積載効率は年々下がり続けて40%を切っており、トラックの荷台の60%が空気を運んでいる状況です。インターネット通販による小口配送や時間帯指定などにより積載効率は下がっています。物流を効率的にすることは、CO2の排出量を抑え、環境負荷軽減には避けては通れないです。  そのためには無駄に作らないことは当然のことと、無駄に動かさない、まとめて計画的に運ぶことが重要になります。その効果的な手段として共同物流、共同配送が考えられます。これまで別々に運んでいた商品をまとめて運ぶことでトラックの積載効率が上がります。ここでもテクノロジーを活用して、商品の容積や荷姿などの情報や納品予定の情報をつなぐことが可能になります。また、商品を倉庫に保管したまま直接インターネットで販売することで無駄な移動を防ぎ、必要最低限のモノの移動を可能にすることができます。  さらには、物流を効率的にするためには個社独自で行うのではなく、競合他社や別業界などとも連携することで、より大きな効果を期待することができます。これまで複数の会社が別々に同じ商業施設にデリバリーしていた商品を同じトラックでまとめて運んだり、滞留在庫をひとつの倉庫にまとめて販売したり、リサイクルすることで、物流における規模の経済が可能になり、物流費を抑えることができます。個社ではできなかったことが、複数の会社で協力することで業界全体の活動となり、現実的な社会問題の解決につながるのではと期待しています。  その点でも、物流は社会インフラとして競争領域ではなく、共創領域として社会基盤を構築する役割があるのではと考えています。特にサスティナブルへの取り組みにおいては、企業や業界の垣根を越える必要があるため、中立的な視点でも3PLなどの物流会社がサスティナブルの活動を牽引していくことが、共に創る社会の実現には必要不可欠だと感じております。  株式会社リンクス   代表取締役社長  小橋 重信